記 録:市場秩序形成部会研究会 〔部会研究会一覧
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第2回部会研究会
第1回部会研究会
平成23年度 第3回市場秩序形成部会研究会・第7回社会秩序形成部会研究会
    日 時:平成24年1月27日(金) 15:00〜17:00
    場 所:京都大学法経北館3階 第8演習室
西村 邦行(学術創成研究員)
  「『新しい社会』再読―E・H・カーとP・F・ドラッカーの比較から」
長久 明日香(学術創成研究員)
  「国際経済交渉における消費者の役割−日本のEPA交渉を事例に」
西村報告:2011年10月の研究会において、報告者は、国際政治学の祖E・H・カーの理論に通底する社会民主主義的な思想基盤について検討を行った。その際、参加者から、そもそも社会民主主義とは何かといった概念規定の問題が提起されたが、今回の報告では、その点も踏まえて、カーをより広い思想的な附置関係の中で捉えることが試みられた。
 具体的には、経営学の祖ドラッカーとの比較が行われた。二人の知識人は、専門とする対象も、思想的な方向性も、大きく隔たっていたように思われる。しかし、第二次世界大戦前後の時期、両者は共に、来たるべき秩序に関する政治思想的な考察を展開していた。こうした知的な交錯を繰り広げていた時期の各々の思索は、奇しくも同名の著書『新しい社会』(カーは1951年、ドラッカーは1950年)において一定の到達を見たが、その点、この二冊の書においては、両者の思想の異同が特に明瞭と言える。
 まず、自然調和の思想に体現された合理主義の精神が同時代になっていよいよ行き詰まりを示していたこと、そこにこそ二つの世界大戦の時代の危機が存在していることが、いずれの作品においても基本的な認識として横たわっていた。その上で、この危機の解決策においても、二人の立脚点は似通っていた。確かに、一方のカーが主要企業の国有化を、他方のドラッカーが中間団体としての企業の独立性の担保を説くとき、両者の立場は対極にあるようにも思われる。しかし、これらの策は共に、労働者の意欲と個の自律性を取り戻すことに向けられており、その基礎には、民主主義に基礎を置いた一九世紀後半の原初的な社会主義が想定されていた。
 こうして、カーとドラッカーの間には、方法面での差異と同時に、思想基盤の共通性が存在した。ここからは、現代の政治でもしばしば問題となる政府の規模といった対抗軸が、単純に過ぎるものであることも浮かび上がってくる。今後は、カーに批判を投げかけたハイエク、ドラッカーと親交のあったK・ポランニーらとの関係についても検討を進めていくことで、この四半世紀、世界的に再編が進んできた戦後福祉国家体制をめぐる思想的な軸に、非従来的な視点からアプローチする可能性が考えられる。
 報告後、参加者からは、二人の思想家を今取り上げることの意義、とりわけ政治学の中で取り上げることの意義などを中心に、有益な問題の提起やそれに対する示唆の提出が行われた。
長久報告:本報告は、国内政治における消費者の役割や地位の改善を受け、国際政治、特に経済交渉における消費者の役割を検討するものである。まず、これまでの日本のEPA交渉研究では、協定締結の経済効果の分析が中心であり、包括的な交渉研究が十分でないことを指摘した。また、より政治的な文脈からの分析でも、かつての日米交渉研究を援用した2レベルゲーム等による分析が中心であり、そこでは、政府と輸出産業・保護産業といった利益集団のみがアクターとして取り扱われている。しかし、今日のEPA交渉はそのような利益集団間の相互作用だけでは十分分析できない。そこで、本報告では、これまで国際経済交渉で見逃されてきた消費者という新たなアクターを分析に加えることで、今日の国際経済交渉の新たな側面を描写した。
 具体的には、メキシコ、タイとのEPA交渉を事例として取り上げた。その結果、一般に指摘されているような輸出産業界から農業分野への圧力が強かったわけではなく、消費者一般の交渉決裂に対する批判的な反応が、交渉締結に一定の役割を果たしたことが示された。しかしながら、今回の報告では、消費者の間接的な影響力しか認められず、今後、行われるオーストラリアとのEPA交渉やTPP交渉といったより消費者の注目度の高い事例との比較によって経済交渉における消費者の役割についての理論を発展させることが課題とされた。
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平成23年度 第2回市場秩序形成部会研究会
    日 時:平成23年10月7日(金) 14:00〜17:00
    場 所:京都大学法経本館3階 小会議室
長久明日香(学術創成研究員)
  「規制調和とWTO−食品安全規制をめぐる問題」
西村邦行(京都大学大学院法学研究科・研究員)
  「社会民主主義の個人像―E・H・カーの諸論から」
長久報告:本報告は、95年に成立したWTO(世界貿易機関)における規制調和の問題について食品安全規制を事例に考察している。そもそも規制調和とは、「国によってまちまちな規制や政策を調和し、その違いをなくすこと、あるいは少なくともより小さくすること」であり、こうした取り組みの背景には、相互依存の認識の高まりや、グローバル化によって共通の問題に対する共通の対応が要請されていることが挙げられる。そのような規制調和のための場としてWTOが機能していると考えられるが、その中でも特に食品安全規制に関わるSPS協定は、WTOと同時に成立し、現在、既に実際の紛争解決が行われているという点で注目される。SPS協定をめぐっては、その科学性の原則が予防原則という異なる価値からの抵抗を受け、アメリカ、EU間の対立が注目されている。さらに、そうした規制調和をWTOが担うことに関して正当性の観点から疑問が提示されている。こうした現状を踏まえ、本報告では、これまでのSPS協定に関する紛争を事例研究することで、WTOが規制調和を行うよりもむしろ各国間の調整の場として機能していることを指摘し、その正当性の問題も調整の観点から再考されるべきことを指摘した。
 以上の報告に対する質疑応答では、調和と調整の定義についてより明確に議論することが求められた。また、本報告での課題を広くガバナンスの問題として捉え、より積極的にWTO成立の意義を提示する必要性があるという指摘があった。
西村報告:本報告では、二〇世紀イギリスの知識人E・H・カーの政治理論を社会秩序一般に関する議論として読み解き、その個人観が社会民主主義に投げかけている示唆について検討が加えられた。
 従来、カーは、国際政治学の古典的理論家として読まれてきた。しかし、近年、彼の視点が国内社会と国際社会とを必ずしも峻別しないものであったこと、彼が積極的に代替的な秩序の構想に取り組んでいたことが論じられるようになってきた。こうした潮流に棹差しつつ、カーの主著『危機の二〇年』へと目を向けるならば、彼が言う理想主義と現実主義との間には、独特の文明史的な視点が埋め込まれていたことが注目される。つまり、カーが理想主義という言葉で意味したのは、アダム・スミス以降の自由主義の流れであり、この思潮が支配的であった時代には、私的利益と公的利益とが自然に調和するとの想定が、社会の倫理的基盤を提供していた。他方、現実主義というのは、この世俗化された形での啓蒙思想が、実践において、格差や収奪といった事態を正当化する中で、理想主義の内在的批判として現れてきた歴史主義的な立場であった。そのとき、現実主義は、歴史の法則性に個人が翻弄される決定論的な世界像として現れてくるが、これは個と全体との調和が崩壊した後の危機の兆表に他ならない。カーが社会民主主義的な秩序構想を提示した時、その背景にあったのはこうした歴史認識であり、だからこそ、彼の解決策においては、構造の中で再び自律的な活動を行い得るようなより強靭な個が想定されることとなった。こうしたカーの理解からは、政治への関与という側面において、国家による生活の保障を目指す福祉国家的な社会像の方が、実のところ、自己責任の論理を説く自由主義的な社会像の方よりも強い個人を想定しているという逆説的な結論が導き出されることになる。以上のように論じて、本報告では、社会民主主義の連続性・断絶性を見る際、複数の軸が必要となることを指摘した。これに対し、参加者からは、社会民主主義とはそもそも何かといった定義の問題や、その中に置いて敢えてカーを取り上げる意味について、活発に議論が交わされた。
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平成23年度 第1回市場秩序形成部会研究会
    日 時: 平成23年5月20日(金)14:00〜18:00
    場 所: 京都大学百周年時計台記念館2階 会議室V
 池尾 和人氏(慶應義塾大学経済学部教授)
   「金融危機とその後の規制改革」
 西口 健二氏((株)日本総合研究所理事)
   「金融規制とリスク管理実務」
 谷澤  満氏 (弁護士)
   「金融規制と法律実務」
 木下 信行氏(日本銀行理事)
   「金融危機後における資本市場改革」   
 今回のワークショップでは、今次の金融危機以降、活発化した「金融規制の再構築」について、実務の視点と学術の視点を横断する形で議論が行われた。
 池尾氏の報告では、金融危機発生メカニズムの分析を通じて、近年の規制改革に対する評価が行われた。ある問題が金融システム全体の危機へと至る過程は二段階に分けることができ、まずは、住宅価格暴落といった引き金要因が一部の金融機関の破綻をもたらし、その後、問題を増幅させる要因が存在する場合に全面的な危機が発生する。ただ、この際、そもそも引き金要因がシステム内生的に作り出されていることも少なくない。今次の危機はまさにこうしたケースであり、クリントン政権からブッシュ政権へと至る時期のアメリカでは、企業統治と規制監督の両方のレベルで不適切に緩和された規制体制が維持・増長されていたのであり、さらに市場流動性の枯渇が増幅要因となったことで、システムレベルの危機に至り着いた。したがって、その後の規制改革においても、銀行以外の大規模金融機関に対する破綻処理手続の整備といった第二段階への初期消火対策と共に、自己資本比率規制の是正を通じたリスク補足の強化など、危機の第一段階に対する防火対策への取り組みが重視されている。このように述べた上で、池尾氏は、日本の現状へと話を進め、銀行へのリスク集中を見直し、新たな受け皿を作る上で、市場型間接金融が引き続き意義を有している点を指摘した。
 西口氏の報告では、リスク管理の実務や自己資本規制の実施の観点から、金融規制の再構築についての論点を最近の動向も踏まえて論じられた。まず、予備的調査として、日本の金融システムの問題点を銀行へのリスク集中、脆弱な信用供与、低収益体質、公共性への傾斜という特徴から指摘した。さらに今次のリスク管理の問題は、ここ20年の銀行規制の変遷の中にその根があるとして、特にバーゼル委員会において決定されるBIS規制のリスク把握という観点から議論した。さらに、今日では、連鎖リスクや循環リスク等の新たなリスクが急拡大し、現状のリスク管理では限界があるため、それら新しいリスクを把握・管理する方法として、マクロリスクの考え方が提示された。一方で、国際的な金融規制の見直しも進展しており、バーゼル委員会ではバーゼルVという規制強化のための合意が決定されている。しかしながら、バーゼルVには、規制内容の過度の複雑化や自己資本規制への偏重等の問題が存在し、将来の金融上の課題に対処するためには、金融規制全般の総点検と再設計が必要とされる時期に来ているのではないかという指摘もあった。
 谷澤氏の報告では、報告者自身の法律実務での経験を踏まえ、金融規制についての問題点を民間企業の立場と行政からの視点の両面から検討された。本報告では、まず、資本市場に対する規制ではなく金融業者に対する規制に的を絞って議論される点で他の報告との相違が明らかにされた。具体的には、銀行業法、金融商品取引業法、保険業法(さらに貸金業法)等の中で、リスクがどのように扱われているのか、各法によって異なっているのか、全体として扱われるべきかという点が議論の中心であった。そして、現状では、金融業者に対する規制は、国際的にも国内規制上も自己資本規律を中心とする枠組みとなっていることを示した上で、そのような自己資本規律規制の有効性がより重要な争点であることを指摘した。そして、国際合意を受けて無理に規制水準を引き上げるのではなく、社会的な便益と損失をバランスするような適切な水準による規制が必要であると議論された。
 最後に、木下氏の報告では、世界的な金融危機発生後の金融資本市場の改革に関する国際的な合意と日本における金融市場規制改革の関係が議論された。まず、G20ピッツバーグサミットでの合意を受け、信用格付け機関やヘッジファンドへの規制強化、さらにこれまで規制・標準化されていなかった市場・商品に対しても規制を設ける等、今次の危機を生みだしたと考えられる問題についての対応が進展していることが紹介された。そして、そのような国際的合意を受け、日本においても金融商品取引法の改正や決済システムの強化が実施されることで金融市場規制の改革が進展している。一方で、そのような国際合意を国内に移植する際の問題も存在する。例えば、日本の法体系では、規制対象に対する事前の明確化が必要とされるため、規制改正のタイムラグが生じる。また、履行メカニズムにおいても行政当局による執行が中心で、私的な監視体制が十分ではない。さらに、金融システムの背景にある基礎的な観念の差から、日本では同じ規制でも委縮機能が大きくなるという問題点もあることが指摘された。
 以上のような報告を受け、質疑応答では、日本の金融市場の問題点として、銀行の公共性への傾倒や規制が委縮効果を持つことについて議論された。また、BIS規制という国際的な合意が国内規制に先行することの問題点も指摘された。それに対しては、バーゼル委員会において日本が提案した規制も存在し、必ずしも欧米だけで形成されたルールではないことが指摘された。また、報告で十分議論されなかった論点としてモニタリングの問題についても取締役会のリスク管理という観点から議論が深められた。
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平成22年度 第4回市場秩序部会研究会
   日 時:平成22年9月3日(金) 13:00〜16:00
   場 所:京都大学品川オフィス 会議室3
        品川インターシティA棟27階
舟田 正之氏(立教大学法学部教授)
  「独占禁止法と取引の自由 その2」
 本報告は、独占禁止法における「取引の自由」の意義を、隣接諸領域との関係も視野に含めながら論じるものである。  まず、独占禁止法の保護法益として、@「公正かつ自由な競争」秩序とAその中で「比較・選択」を行う市場参加者の権利=「取引の自由」の二つが挙げられた。その上で、取引の自由が主観的権利と客観的・秩序的性格の両面を有しており、他者の自由との衝突の場合には、自由そのものの意味内容ではなく、競争制限・阻害の除去(=公正かつ自由な競争の促進)という目標と客観的な実定法秩序から解決が図られるべきであることが指摘された。
 次に、「取引の自由」が市場力によって侵害される場合について、競争事業者からなされる場合(ヨコの濫用)と取引の相手方からなされる場合(タテの濫用)の両方があることが指摘された。例えば、有力事業者の専売店制を例にとると、実体法の解釈として、競争メーカーが「公正かつ自由な競争」の下で享受したであろう取引のチャンスの重要部分を失う蓋然性があれば、「競争の減殺」があるとされる(解釈レベル)。また。ここには、理論上、競争メーカーの「取引の自由」を侵害する側面(ヨコの濫用)と取引の相手方の比較・選択を妨げる側面(タテの濫用)の両方が存在することになる(理論レベル)。本報告の立場では、この両者から濫用の有無を判断することになるが、「取引の自由」を道具概念として用い、これを不当に侵害するかという問題の立て方はせず、解釈を裏付ける説明概念に止めるため、結論は通説と大きく異ならないという。
 また、このような「取引の自由」は、財貨を獲得できることの保護であり、民法の保護法益を獲得された財貨の保護であるとすれば、この両者を併せたものを「私法社会」と見る可能性があることも指摘された。
 さらに、基盤侵害型の不公正な取引方法における保護法益について、実体法上の要件とされている「不利益」とは、@「将来における不確実な、実体的な不利益・利益」ではなく、「『公正かつ自由な競争』秩序の中で判断・行為するチャンスないし可能性」の侵害であって、A当該行為に限って判断され、取引の成立または取引条件が強制されたことの徴表としてとらえるべきことが、例を交えつつ、説明された。例えば、相手方の同意があったから「契約の自由」だと言うならば、民法上の公序良俗違反も成立しないことになるし、事後的に利益が出たことまで考慮すると規制の実効性が失われるというのである。
 本報告に対しては、「取引の自由」が評価基準にならないということの意味や、卸売事業者の「不利益」をどのように評価するのか、民法上の競争秩序との関係、社会公共目的の制限の位置づけ、憲法上の保障との関係などについて極めて活発な議論が行なわれた。
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平成22年度 第3回市場秩序部会研究会
   日 時:平成22年8月28日(土) 14:00〜17:00
   場 所:キャンパスプラザ京都6階 京都大学サテライト講義室
上杉 秋則氏(一橋大学大学院国際企業戦略研究科客員教授)
  「独禁法21条 ―回顧と展望」
 知的財産権と独禁法の関係につき、独禁法21条は、知的財産権の権利の行使と認められる行為については独禁法を適用しない、と規定している。本報告は、同条をめぐる議論を顧みること、およびそれを通じて、知的財産権と独禁法の関係の捉え方に関する将来の展望を明らかにするものであった。  本報告では、まず、公取委における独禁法21条の解釈論の変遷が紹介された。1980年代までは、同条にいう権利の行使を、法律により付与された権利の行使である本来的行使とそれ以外の非本来的行使に形式的に二分し、本来的行使について同条の適用がある、というのが公取委の解釈であった。しかしながら、このような解釈では、知的財産権に関しては、不公正な取引方法に該当する場合についてしか独禁法を適用できない、という問題があるとして、いかにして本来の法的用が可能になるかが長年の課題とされてきた。そして、公取委は、1989年ガイドライン、1999年ガイドライン、2007年ガイドラインの策定を通じて、知的財産制度の趣旨を逸脱し、又は同制度の目的に反すると認められる場合には独禁法の適用がありうるという21条の解釈論のガイドライン化と、独禁法3条の適用可能性および3条違反の考え方のガイドライン化を図ってきた。
 続いて、独禁法21条の解釈の変化に見られる、知的財産権と独禁法の関係の捉え方の変化について論じられた。日本においてこのような捉え方の変化をもたらしたのは、米国とEUの動きであることが指摘された。米国については、合理の原則の採用と1995年の知的財産権ガイドラインが、EUについては、一括適用除外規則が取り上げられ、紹介がされた。
 さらに、知的財産権と独禁法をめぐる議論が及ぼした影響について論じられた。報告者によれば、最大の影響は、市場・競争の捉え方に現れた。競争関係の捉え方に及ぼした影響として、具体的には、ダイナミック・エフィシエンシーの評価の高まりとスタティックな競争概念への反省や、競争の実質的制限の判断に当たりライセンサーのライセンスへのインセンティブとライセンシーのイノベーションのインセンティブの観点を導入すること、などが挙げられた。
 最後に、知的財産法と独禁法の関係の捉え方に関する今後の課題が挙げられた。具体的な課題として、2007年ガイドラインが指定している、セーフハーバーから除外されるハードコア制限の捉え方の問題点が取り上げられるとともに、わが国において、知的財産権に対する独禁法の適用に関して不公正な取引方法を中心に考えてきたという歴史的経緯もあり、競争制限の判断力が弱い、ということが指摘された。また、従来、独禁法サイドは知的財産権を所与のものとして検討する傾向が強いのに対して、知的財産権サイドは権利の成否に関心があるがその行使には関心が低い傾向があるとして、独禁法サイドと知的財産権サイドの双方からの一層の議論が今後望まれる、との指摘がされた。  報告の終了後、参加者を交えて活発な質疑応答が行われた。
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平成22年度 第2回市場秩序部会研究会
   日 時:平成22年6月18日(金) 13:00〜17:00
   場 所:メルパルク京都4階 研究室2
黒沼悦郎氏(早稲田大学大学院法務研究科教授)
  「投資者保護のための法執行」
前田雅弘氏(京都大学大学院法学研究科教授)
  「インサイダー取引規制」
潮見佳男氏(京都大学大学院法学研究科教授)
  「虚偽記載等の損害賠償責任」
平成22年度日本私法学会シンポジウム準備会を兼ねて研究会が開催され、金融商品取引法の現在の課題について報告および質疑応答が行われた。
 T.黒沼悦郎氏の報告では、市場外で行われる投資詐欺事件の防止と救済に金融商品取引法を役立てるための解釈論と立法論が展開された。
 具体的には、第1に、集団投資スキーム持分の定義を柔軟に解釈することにより、どこまで投資詐欺事件の被害者に金融商品取引法による保護を与えられるかの可能性が検討された。
 第2に、課徴金の制度を被害者救済に役立てるため、課徴金を被害者に分配する制度を構築することが考えられるが、その場合にどのような問題が生じるかについて、立法論的な検討が行われた。すなわち、公的な目的のために導入された課徴金を投資者の利益保護という私的な目的のために使用してよいか、金融商品取引法に定められていない違反行為についても分配の対象としてよいか、課徴金の額を引き上げる必要はないか、課徴金の適用範囲を拡大する必要はないか、行政手続のまま被害者に分配してよいか等である。
 第3に、違反行為の早期の発見と是正のためには、どのような法整備が必要かについて、立法論的な検討が行われた。緊急差止命令の制度の改善等である。
 U.前田雅弘氏の報告では、現在の金融商品取引法によるインサイダー取引規制は、要件の客観性・明確性を重視した結果、きわめて形式的な規制となっているところ、このような規制枠組みを見直すべきではないかが検討された。
 まず、現行法が形式的な規制枠組みを採用したのは、昭和63年の証券取引法改正時に、予測可能性と規制の運用可能性が至上命題とされたからであるという歴史的背景を確認したのち、現行法のままでは、適用範囲の十分性が確保できないという問題が指摘された。すなわち、不公正取引の一般規定である157条の規定は現実には活用できず、重要事実に関する政令指定の制度および包括条項の制度も規制漏れを防ぐことができないことが明らかにされた。
 改善の方向としては、現行法の形式的な規制枠組みに代えて、法律では一般的・抽象的な規定だけを定めることとする方法も考えられるが、現実に運用可能かについての疑念を払拭できないことから、従来の刑事制裁を伴うインサイダー取引規制とは別に、課徴金制度との関係で、インサイダー取引規制は、すっきりとした一般的・抽象的な規制枠組みに改めることを目指すのがよいのではないかという立法論的な提言がなされた。
 V.潮見佳男氏の報告では、虚偽記載等により有価証券取得者に生じた損害の賠償に関する効果論がとりあげられた。その際、金融商品取引法における議論と民法における損害論との間に齟齬がないかを検証する等の必要から、不法行為損害賠償の法理についても言及がなされた。
 有価証券届出書等に虚偽記載等があった場合には、不法行為の要件を満たせば、当該虚偽記載等により有価証券取得者に生じた損害の賠償が認められるが、この場合の損害の捉え方としては、複数の考え方を観念することができることが明らかにされた。すなわち、@原状回復的損害賠償と捉える考え方、A取得前後における利益状態の差額賠償と捉える考え方、B「高値取得損害」の賠償と捉える考え方、C取得後の「財産総体」に生じた損害(総体財産損害)と捉える考え方である。そしてこれらは、前記Aを除けば、いずれも成り立ちうる考え方であることが示された。
 以上の損害論の分析を踏まえ、発行市場・流通市場における発行者の損害賠償責任について、金融商品取引法上の規律の意義と問題点が明らかにされた。
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平成22年度 第1回市場秩序部会研究会
   日 時:平成22年5月22日(土) 14:00〜17:00
   場 所:キャンパスプラザ京都6階 第8講習室
和久井 理子氏(大阪市立大学法学部・特別研究員)
  「著作権と独禁法・競争政策」
コメンテーター: 松村 信夫氏(大阪市立大学法学部特任教授・弁護士
                             ・日弁連知的財産制度委員会委員長)
         竹田 透 氏(文化庁長官官房著作権課著作物流通推進室 室長補佐)
        川M 昇 氏(京都大学大学院法学研究科・教授)
        宮井 雅明氏(立命館大学法学部・教授)
 知的財産権は、その権利の性質上、競争政策と密接に関連し、必然的に独占禁止法との関係が問題となる。本報告は、知的財産権のうち著作権を取り上げ、これと独禁法の関係を検討するものである。本報告では、両者の関係を検討するに当たり、著作権の利用につき独禁法の適用が問題となりうる領域においていかなる実態があるか、そのような実態の下でどのような問題が生じる可能性があるか、ということを明らかにすることを主眼に置いて、まず、これまで問題となった著作権の利用に係る独禁法違反行為につき、その概要が紹介された。また、時間の関係上あまり触れることができなかったが、公正取引委員会のガイドライン「知的財産の利用に関する独占禁止法上の指針」を参照し、著作権と独禁法の関係が問題となりうる点を詳細かつ網羅的に分析した資料が紹介された。
 著作権の利用に係る独禁法違反行為の概要では、公取委が法的措置をとった事件、及び公取委の事業活動相談に対する回答がされた事例が紹介され、報告者による分析が加えられた。前者については、公取委による『平成21年度下半期総合評価書』中の「知的財産権の利用に係る独占禁止法違反行為(概要)」で取り上げられた著作権に関する事例を中心に、計8例が紹介された。また後者については、著作物再販対象商品と非適用除外品のセット販売に関するもの、音楽配信サービスにおけるコンテンツプロバイダーによる価格の指定に関するもの、事業者団体による音楽著作権情報の集約化及び集中処理に関するもの、の3件が紹介された。さらに、以上と異なり公取委が関わったものではないが、キャラクターの著作権をめぐり行政と原案者の間で民事調停が行われた事案が紹介された。
 報告の後、コメンテーター及び研究会参加者を交え、活発な議論が行われた。報告者により紹介された従来の事件との関係では、著作権の権利行使と独禁法の適用が正面から問題になった事件はそれほど多くはないこと、特に、そこで問題となった行為が著作権の権利行使として法的に認められる範囲内の行為であったかが疑わしいものがあること、などが指摘された。また、同じく知的財産権である特許権に関わる問題として、著作権と特許権の間には独禁法の適用に関して、著作権と特許権の性質の違い、特に市場支配力の形成のあり方に起因する相違があることが指摘された。具体的事件を離れた議論としては、近時利活用が進んでいるデジタル化された出版物について、著作権の保護とデジタル化された出版物の円滑な利活用との調整の問題、などが取り上げられ、議論が交わされた
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平成21年度 第7回市場秩序部会研究会
   日 時:平成22年3月31日(水) 14:00〜17:00
   場 所:キャンパスプラザ 第13演習室
佐藤 勤氏(南山大学法学部・教授)
 「信託目的達成のために必要な行為をする者の責任について―東京地判平成21・6・29判決を題材として―」
コメンテーター:福井 修氏(富山大学経済学部・教授)
 現代の商事信託においては、信託法上の受託者以外の専門家の能力を利用して信託目的を達成する類型の信託が多く、これらの者は場合によっては受託者と同等、あるいはそれ以上の役割を果たしている。本報告は、このような現状を踏まえ、信託目的を達成するために重要な役割を果たす受託者以外の者についても、一定の場合には、信託法上の受託者概念を拡張し、信託法が定める受託者と同等の義務を課すべきである、との解釈論ないし立法提言を行うものである。  本報告では、まず、東京地判平成21年6月29日(金判1324号18頁)が紹介され、証券投資信託に関する現在の法制度および法解釈の不十分性が示された。次に、証券投資信託においては、専ら投信委託会社が信託財産の処分を決定しているのが実態であるとの紹介があった。佐藤氏は、このような証券投資信託の実態に鑑みると、信託銀行とともに投信委託会社も信託目的を達成するための権限を本源的に有し、両者で権限の分掌がされているとみるべきだ、とする。また、信託における受託者の本質は、信託財産の名義ではなくその管理権を有することにあると解すべきであるとされる。以上に基づき、佐藤氏は、投信委託会社を信託法上の受託者とみなし、投信委託会社と信託銀行は職務分掌のある共同受託者である、したがって投信委託会社もまた受託者としての義務や責任を負うと解すべきである、とされる。さらに、このような考え方を、証券投資信託に限定することなく、信託目的を達成するために重要な役割を果たす者一般に、すなわち信託法一般に妥当させるべく解釈論ないし立法を行うべきであると主張され、その際に受託者と同等の義務を課すべき者の範囲を画するための要素が提示された。
 続いて、本報告に対して、福井氏によるコメントがされた。コメントでは、1.投資信託スキームを投信委託会社と信託銀行との権限分掌と見ることの是非、2.受託者が複数の場合における信託財産の所有形態が合有とされていることの是非、3.証券投資信託における証券取引の実態を踏まえたときに証券取引の法律関係をどのように捉えるか、の三点が指摘された。
 その後に行われた質疑応答では、投信委託会社を共同受託者と捉えるという報告者の主張の妥当性ないし必要性や、証券投資信託においてはそのように捉えうるとしても、これを信託法一般に妥当する解釈論ないし立法提言として展開することの是非、さらに、現在の証券投資信託スキームにおける信託銀行の役割や、証券投資信託における関係当事者間の法律関係、たとえば証券投資信託における証券取引について誰にどのような根拠で法律効果が帰属するのか、など、きわめて活発かつ多岐にわたる質疑がされた。
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平成21年度 第6回市場秩序部会研究会
   日 時:平成22年3月24日(水) 15:00〜17:00
   場 所:京都大学法経北館3階 第13演習室
重本 達哉氏(京都大学大学院法学研究科研究員(学術創成))
 「ドイツ行政法執行システムの『例外』の諸相―いわゆる即時強制を中心に―」
 本報告は、わが国におけるいわゆる行政強制と淵源をともにする、ドイツの行政執行における即時強制の体系的位置付け等を検討するものであった。
 まず、日独両国において行政強制又は行政執行自体がエンフォースメントの手法として例外的にしか用いられていないことが指摘された後、特に行政執行における通常の手続は一定の時間を必要とするため、急迫の危険に対応するためには例外的に手続の省略が必要であることが示された。そして、このことを前提として立法化されている「即時執行」は、連邦及び州の一般行政執行法において一般的に「先行する行政行為なき強制手段の適用」として規律されていることはともかく、概念自体に対する批判が従来有力に存在していること、警察法上の類似の概念として「直接執行」があるものの、それは歴史的にも現行法制度上も一般行政執行法における上記の例外的手続と機能的に同種の存在であることから、これらをまとめて即時強制として考察することが適切であるという観点が示された。次に、そのドイツにおける即時強制の要件が整理検討された上で、その法的性質に関して、かつて私人の権利保護の観点から行政行為の擬制を肯定する見解が支持を集めていたが、現在では行政訴訟法制の進展及び行政手続法との整合性を踏まえて端的に事実行為と解する見解が支配的地位を占めていることが紹介された。その帰結として、即時強制は、行政執行の例外的かつ最終的な手続であるとともに、先行する行政行為を発することができるのか又は発する意味があるのかの判定が困難な程度の時間的切迫性が必要不可欠であることも指摘された。さらに、近年、州の一般行政執行法において明文で規律されつつあり、また、即時強制に係る規定の勿論解釈により許容されうる略式手続の要件及び法的性質が検討され、わが国の行政代執行法上の緊急代執行と類似する略式手続との関係においても、即時強制は例外的存在であることが示された。結局、即時強制はエンフォースメントにおける例外中の例外の手続であって、わが国においてもその立法化には慎重であるべきこと、行政庁の勧告に従わない私人に対する即時強制を認める実定法の勿論解釈として、先行する行政行為の発付権限を導きうること等が示唆された。
 本報告の後、公衆衛生行政における基本権の制約、強制概念等に関する質疑応答が行われた。
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平成21年度 第5回市場秩序部会研究会
日 時:平成22年3月20日(土) 14:00〜18:30
場 所:京都大学法経北館3階 第13演習室
萩原 浩太氏(公正取引委員会経済取引局総務課企画室・弁護士)
  「間接侵害(特許法101条)と競争政策、抱合せ規制(独禁法)について」
コメンテーター:泉 克幸氏(徳島大学総合科学部教授)
和久井 理子氏(大阪市立大学大学院法学研究科准教授)
  「非係争条項(NAP)の検討」
特定質問者:高倉 成男氏(明治大学特任教授)
         西村 元宏氏(公正取引委員会経済調査室・競争政策研究センター)
  萩原報告は、特許権のいわゆる間接侵害を定める特許法101条(@)と独禁法上の抱合せ規制(A)の関係について検討するものであった。
特許権侵害につながる蓋然性の高い予防的・幇助的行為を特許権侵害とみなす@は、現行特許法制定時には客観的要件のみを判断基準とするものであった。しかしその後、欧米の同趣旨の規定に倣い、緩和された客観的要件(a)とともに行為者の主観(b)も判断基準とする新たな間接侵害類型が追加された。
本報告では、以上の経緯等が紹介された後、@に係る判例のうち、Aと関連しうる事案であったが間接侵害を否定した一眼レフレックスカメラ事件(東京高判昭和58年7月14日判時1095号139頁)、aについて詳細に判示したものの間接侵害を否定したプリント基板メッキ用治具事件(東京地判平成16年4月23日判時1892号89頁)、bを認めたものの結局間接侵害を否定した上に特許権の無効事由まで認めた一太郎事件(知財高判平成17年9月30日判時1904号47頁)が詳細に検討され、日本の判例は独禁法の観点を表に出さないものの競争制限的となる過度の権利主張を抑止していると結論付けた。
これに対して、特許権の不当な拡大だけでなく特許法と競争法の関連も比較的意識されている米国とその関連があまり意識されていない日本を比較する泉コメント、特許権侵害に係る裁判所の総合考慮の観点が間接侵害の判断のみならず独禁法違反の判断にも影響しうるとする西村コメントとそれに対する疑問等が付された。
 萩原報告の後、高倉成男氏(明治大学特任教授)により、特許庁産業構造審議会知的財産政策部会特許制度小委員会における検討の視点と主な検討事項が詳細に報告された。特許法の解釈に競争政策の視点を加味する裁判所の姿勢を歓迎するとともに、特許権侵害を認めても直ちに侵害行為の差止請求を認めない近時の米国の判例(e-Bay)等に言及した上で、わが国では権利濫用法理の活用によって同種の帰結をもたらせるのではないかという見解が示された。これに対して、わが国の一般条項の利用形態からすると立法的手当が必要ではないかという意見が示された。
 引き続き行われた和久井報告は、マイクロソフト事件(平成21年9月16日公取委審判審決)及びクアルコム事件(平成22年1月5日公取委審判開始決定)を素材として、いわゆる非係争条項の競争法違反性を検討するものであった。
 すなわち、両事件における非係争条項は通常と異なり、ライセンシーが自己の特許権をライセンサーからライセンスを得ている者に対して主張しない旨まで定めるものであった。そして、当該条項を含むライセンス契約を締結することを余儀なくさせたこと、締結の検討のための十分な時間を与えなかったこと、さらに、当該条項は自己の技術を用いて製品を差別化することを困難にさせることにより研究開発意欲を低下させたことから、関連市場における自由競争の減殺を招いた結果、特許ポリシーに反するとともにいわゆる公正競争阻害性を充たして独禁法が禁止する不公正な取引方法に該当すると公取委は判断しているように思われる。しかし、そもそもこれらの審決等での「自由競争の減殺」や「公正競争阻害性」の意味内容が不明確であり、かならずしも反競争的でない行為や場合によっては競争促進的でさえある行為が規制されるのではないかという懸念が表明された。
 本報告の後、自由競争減殺の認定要素、非係争条項採用戦略の意図及び合理性等に関して活発な質疑応答が行われた。
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平成21年度 第4回市場秩序部会研究会
   日 時:平成22年2月5日(金) 15:00〜17:00
   場 所:京都大学法経北館3階 第13演習室
重本 達哉氏(京都大学大学院法学研究科研究員(学術創成))
 「ドイツ行政法執行システムの構造
  ―行政行為と行政執行の法的関連性を中心に―」
 本報告は、わが国におけるいわゆる行政強制と淵源をともにする、ドイツの行政執行が現在どのように法制化されているのかについて検討するものであった。
 まず、ドイツでは連邦と州が独自に行政執行全般に係る一般法を整備しており、その結果、行政執行の個別論点を検討する際には各行政執行法制の異同に注意を払わなければならないことが指摘された。次に、ドイツ行政執行法全般にわたって明示的に定められている要件として、行政執行過程の起点となる行政行為(基礎処分)に不可争力が生じていること又は法的救済手段に停止的効果が生じていないことが挙げられるが、警察法の領域をも含めて検討を進めると、これらは容易に排除され得るものであることを明らかにした。そして、行政執行の一般的適法性要件として、基礎処分が無効でないことを確実に挙げることはできるが、それに止まらず、基礎処分が適法であることまで要求されているのか、言い換えれば、基礎処分の違法性が行政執行に一般的に承継されるのかを検討し、関連法制は、これを否定する方向で歴史的に展開しつつあるように思われること、判例もまた基本的に否定説の立場を採っており、学説も同様であることが示された。もっとも、上記のような議論状況にもかかわらず、基礎処分が適法であることまで要求する肯定説が少数ながら現在なお存在することに着目し、その論拠を、それに対する批判・異説とともに逐一採り上げ詳しく検討した。その中で、報告者は、否定説に立ちつつも、執行費用の給付決定に対する取消訴訟において基礎処分の適法性を争うことを認める見解があること、さらには、行政執行の終了による基礎処分の<決着Erledigung>を否定することにより、基礎処分に対する取消訴訟を引き続き認める見解もあることを指摘した。最後に、以上の検討を踏まえた上で、上記の権利保護形式に係る見解は、取消訴訟におけるいわゆる狭義の訴えの利益等のわが国における法解釈に関しても参考となると述べつつ、現代ドイツの実定法構造は、行政執行の一般的要件として基礎処分が無効ではないことを要求しているに過ぎないものの、行政行為又は行政実体法と行政執行の法的関連性及び行政執行法・行政訴訟法間の多様な相互作用に基づいて、個別具体的かつ柔軟に行政執行の適法性要件を加重し得る構造になっていることが指摘された。
 本報告に対しては、「適法」「有効」「違法」それぞれの言葉の意味の違い、本報告で言及された連邦憲法裁判所決定の事案の詳細、本報告の検討とわが国における違法性の承継論との関係等に関する質疑応答が行われた。
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平成21年度 第3回市場秩序部会研究会
   日 時:平成22年2月2日(火) 15:00〜17:30
   場 所:メルパルク京都6階 会議室5
舟田 正之氏(立教大学法学部教授)
 「独占禁止法と取引の自由」
 本報告は、競争と自由に関する論点を法理論的観点からいくつか提示するものであった。
まず、近年の独禁法における執行力強化の方向性には積極的に評価すべき側面はあるものの、執行力の強化は排除すればそれだけで十分な違法行為に対しても制裁を強化する側面があるため、本来排除するに足りる違法性行為の識別を曖昧にすることになりかねず、むしろ積極的な社会形成、日本独自の取引慣行及び競争の特殊性を踏まえた法の運用にこそ重点が置かれるべきと指摘された。
 その上で、次のような考えが示された。第一に、経済秩序と法秩序に関して言えば、1930年代のドイツで生じたオルドー自由主義の中心的人物F. ベームが示した、国家制度と明確に区別されるべき経済制度及びそれを支える私法的秩序という構想に依ると、その秩序を成立させる私的自治は競争機能を暗黙の前提としており、現代の法秩序は結局、競争機能を独占禁止法という形で明示し、その実効性を確保することによって初めて市民社会としての正統性を主張できるとともに、最適な資源配分の達成という形で経済秩序と調和することができる。第二に、支配と自由に関して言えば、行為者に対する規制という形式で表れる独禁法においても、むしろ当該規制が向けられる者、つまり取引の自由の担い手にまず着目すべきであり、それは主に組織としての企業である。したがって、その自由は、個人の自由とは異なり得るものであり、また、企業内の個人の自由に配慮しながら考えられなければならない。第三に、独禁法の目的に関して言えば、独禁法は競争過程への害(不公正な取引方法)と市場における競争機能への害(私的独占及び不当な取引制限)を介入根拠とするものであり、前者は、各事業者が市場に自分の業績を提示し、それを比較に供するという競争(業績競争)過程に参加すること自体を害することとして捉えられる。最後に、民法との接点に関して言えば、個人に立脚する伝統的な意思主義からの変容を迫られている民法と独禁法は接点があり得る。
 以上の報告の後、企業の自由と消費者(個人)の自由の対立・相違を独禁法との関連でどのように理解すべきか、独禁法における私的自治論とはどういうものか、中小企業主保護をはじめとして組織が抱える問題を念頭に置いた日米競争法の歴史的展開及び近年の動向、ベームの議論の社会的背景、ベームの「業績競争」概念と1960年代のドイツにおけるそれとの相違、独禁法学における厚生主義的帰結主義の評価等に関して活発な議論が繰り広げられた。

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平成21年度 第2回市場秩序部会研究会
   日 時:平成22年1月9日(土) 14:00〜18:00
   場 所:メルパルク京都5階 会議室2
西村 元宏氏(公正取引委員会経済調査室・競争政策研究センター)
 「インクカートリッジ訴訟に見る独禁法違反行為の主張可能性」
萩原 浩太氏(公正取引委員会経済取引局総務課企画質・弁護士)
 「消尽論の展開とキャノン判決」
 西村報告:本報告では、知的財産法と競争法の具体的調整問題に係る総論的検討として、米国・EUにおいて各々判例を中心に形成されてきた両者の調整規範が報告者独自の類型ごとに整理された上で、競争法運用の国際的整合性を重視する観点から、整理後の上記規範をわが国におけるインクカートリッジ事件の代表例に当てはめた場合の帰結が検討された。
 報告者によれば、上記規範は、米国・EUともに競争法の適用に比較的慎重である中、次の2つに分けられる。第1に、知的財産権に係る製品等の市場Aにおいて市場支配力を持つ当該権利者が当該権利を行使して競争相手を排除する行為(水平型排除行為)の違法性が問われるのは、@当該権利が不正な方法で取得されたものである場合又はA本来付与された範囲を超えて当該権利が主張されている場合のみである。第2に、知的財産権に係る製品等の利用が不可欠な製品等の市場Bにおける同種の排除行為(垂直型排除行為)の場合、原則としてライセンス供与が合理的に命じられるが、それは市場Aと市場Bが分かれている場合に限られる。
そして、上記代表例であり、かつ、特許法等による権利の行使と認められる行為に対して独禁法の適用除外を定める同法21条と関係し得るキヤノン事件(最判平成19年11月8日)及びエプソン事件(知財高判平成19年5月30日)では、第1の規範が適用されるべきであり、両社の行為の独禁法違反を主張するには、両社が主張する特許権について上記@又はAであることを立証する必要があるとされた。
 以上の報告の後、「垂直型排除行為」と間接侵害又は隣接市場との関係、上記「不可欠」の意味(過剰規制のおそれ)等に関して活発に議論された。
 萩原報告:本報告では、知的財産法と競争法の具体的調整問題に係る各論的検討として、上記キヤノン事件への独禁法適用可能性が検討された。
 報告者によれば、わが国の判例上、上記適用可能性を検討するためには、@本件インクタンクに関する原告キヤノンの特許権が消尽しているか、A@が否定される場合、本件再生品の輸入・販売に対する原告の差止請求が特許制度の趣旨の逸脱又は特許権の濫用に該当するかを検討しなければならない。そこでまず、わが国における消尽論の根拠、譲渡された物の修理・再利用等において消尽が認められる範囲に係る社会通念説・生産説の分類及びその詳細等が紹介され、その後、本件の第1審判決から最高裁判決に至るまで詳しく検討された。その上で、@が否定されることは最高裁において確定しているが、インクの再充填が敢えて強調されている本件では、Aが肯定される余地があると指摘された。
 以上の報告の後、本件に対する判決自体の評価、インクの再充填と本件特許権侵害の関係、消尽論と独禁法の関係等に関して大変活発に議論された。
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平成21年度 第1回市場秩序部会研究会
   日 時:平成21年7月11日(土) 15:00〜17:30
   場 所:京都テルサ西館3階 カルチャー室
川M 昇氏(京都大学大学院法学研究科教授、研究代表者)
  「独禁法私訴の理論的課題」
 本研究会は、規制緩和に伴う事後規制強化という潮流の中で、諸外国において独禁法に係る私訴、特に損害賠償請求訴訟が見直されつつある近年の状況を踏まえ、独禁法の主要規定に違反した者は誰のいかなる利益に対して損害賠償義務を負うのかという、従来解明作業が不十分であった基礎的問題を中心に検討するものであった。
 すなわち、川濱報告においては、第一に、競争秩序は競争法を離れて問題とならないとする基本認識及び米国反トラスト法に係る議論の精確な理解の下、上記違反に対して無過失損害賠償請求権を認める独禁法25条にいう被害者とは、公正かつ自由な市場の成果を享受する利益を侵害された者をさすが、これにはEC競争法及び米国反トラスト法と同様に、公正かつ自由な市場に参加する利益を侵害された関連市場の競争主体も含まれるとの見解が示された。第二に、独禁法違反行為による損害として、価格カルテルに対する需用者の損害を典型とする超過請求型損害のみならず、市場支配力による社会厚生上の損失を意味する厚生損失型損害も理論的には包含可能である。しかし、たとえ後者の推計に計量経済学的手法が利用可能であるとしても、その帰属の立証困難性から、米国の三倍額賠償制度と異なる通常の民事訴訟システムにおいて独禁法違反に係る損害賠償は常に過少とならざるを得ない旨が指摘された。第三に、上記被害者の損害を十分に填補しつつ、加害者側に過度の負担とならないルールを構築するためには、独禁法違反行為によって生じた価格引上等の下流市場への転嫁の抗弁及びそれと表裏の関係にある最終消費者等の間接購入者による損害賠償請求の検討が、転嫁の発生及び程度の立証困難性にも拘らず不可避であるという認識の下で、両者を否定する米国の連邦法に係る判例法理、その修正を提案した米国反トラスト法現代化委員会及び両者を肯定した上で転嫁額の全面的推定を認めたEC委員会の最近の動向等が紹介された。それらを踏まえた上で、第四に、転嫁は損益相殺に類し、損害額を減少させるべき事情として斟酌するにとどめるのが望ましく、転嫁についての立証責任は被告に、立証すべきは転嫁の事実及び程度と考えるべきこと、違反行為が行われた文脈を無視した転嫁額の全面的推定は、それを支える経済的経験則もなく、その効能にも限界があるため、一律に行う必要はないこと等が、日本法の解釈として示された。
 以上の報告に対しては、概念枠組構築の問題と計測の問題は厳に区別すべきことを強調しつつ、個々の填補賠償原則による損害賠償を議論するには、独禁法学が従来扱ってこなかった個々の消費者の需要行動分析等も必要ではないかという問題提起等を行った山本コメント、わが国の独禁法学において活動の自由に関する言説がしばしば抜け落ちていることに主たる関心を抱く中川コメントが付された。
 その他、民法学における損害概念に係る諸説の関係等をめぐる活発な質疑応答も展開された。
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平成20年度 第8回市場秩序形成部会研究会
   日 時:平成21年2月23日(月) 10:00〜12:00
   場 所:京都大学法経北館3階 第13演習室
松尾 陽氏(京都大学大学院法学研究科(学術創成))
  「法解釈の制度論的アプローチの意義と限界」
  法的判断を明らかにするためには、判断の実体のみならず、その判断が形成される過程を分析しなければならない。この判断形成過程としての制度への関心(制度的アプローチ)は、アメリカの公法学者ヴァーミュールの「制度論的転回」論によってますます高まっているといえる。本報告は、1950年代から1960年代にかけてアメリカの法学説・教育に多大な影響を与えたとされる『リーガル・プロセス』(Hart & Sacks著)という教科書をアメリカの学説史(リアリズム法学・社会学的法学・フラーの学説・近時の制度論的転回との比較)の中に位置づけることによって、制度的アプローチがどのように形成されてきたのかを明らかにしようとするものである。
「リーガル・プロセス」の軸にあるのは「制度的解決の原理」と呼ばれるもので、それは、社会に生じる紛争を、それぞれの制度(私的秩序形成、立法、行政、司法など)に適切に割り振ることによって解決していこうとするものであり、紛争解決の実体ではなくそのプロセスに着目するアプローチである。
 学説史的にみれば、リーガル・プロセスは、リアリズム法学における実体とプロセスの分離を継承しつつも、プロセスの規範化を試みる点で、リアリズム法学と異なる方向へと展開する。しかしながら、プロセスの規範化といっても、プラグマティックに紛争を解決していく必要性が説かれるばかりで、プロセスがどのような価値に資するのかという問題については曖昧な点を残し、その点は1970年代以後において、例えば「新リーガル・プロセス」の論者(Eskridge Jr.)によって批判されることになった。また、後の制度論的転回との関係では、リーガル・プロセスの制度理解は、制度が固定的に把握され、制度についての人々の理解が黙示的に共有化されるという限界があるという特徴があると分析された。
 報告では、このようなリーガル・プロセスの意義は、社会に存在する多元的な利益が多元的な形で吸い上げられる制度メカニズムを探求した点にあると評価しつつも、その限界は、多元的な利益を吸収する制度メカニズムそのものがどのように正統性をもっているのかという問題を扱えていない点にあると指摘した。
 報告に対しては、さまざまな質問や批判が提起され、教科書をどのように学説として扱うのか、「リーガル・プロセス」を可能にした時代状況は何かという問題をめぐって議論が交わされた。
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平成20年度 第6・7回市場秩序形成部会研究会
   日 時:平成21年1月10日(土) 9:00〜12:00/2月17日(火) 9:00〜12:00
   場 所:
コマーシャル・スピーチ研究会 第1回、第2回
<コマーシャルスピーチ研究会の活動について>
 「ポスト構造改革における市場と社会の新たな秩序形成―自由と共同性の法システム」という研究課題は、自律としての自由を尊重しつつ、共同性を確保することを可能とする法のあり方を明らかにすることを目的とします。市場の秩序形成に関して考察する際には、自由で競争的な市場と公正な取引を確保するための制度がその中心的な課題の一つです。
 市場において取引をするというときには、取引をすることを考えている者は、取引の対象となる物やサービス及び、取引の相手に関して情報を集め、その情報を手がかりとして取引をするかそれともしないかということを決め、取引をするとなればその取引の内容を決めます。取引の対象となる物やサービス及び取引の相手に関する情報には、物やサービスを提供する者から提供されるものもあれば、それ以外の者から提供されるものもあります。取引の相手に関する情報についても同じことである。このような情報の健全な流通があって、このような取引の場として市場がうまく機能することになります。
 コマーシャルスピーチ研究会は、市場に資する情報流通の基盤に関する法的枠組みの望ましい形態を探求するために必要な研究を進めようとするために組織されました。コマーシャルスピーチとは、アメリカ合衆国憲法修正第1条にいう言論の自由による保護が及ぼされる商業に関する情報を含む言論を指示する用語です。このような憲法による保護が及ぼされると、商業的情報伝達に対する政府規制がその限りで適用されなくなります。研究会では、このような意味のコマーシャルスピーチに限定することなく、商業的取引を提案又は勧誘する情報伝達の政府規制だけではなく、評判を含む取引に関する情報伝達を規制することになる制度をも取り上げることにします。
 第一に、合衆国憲法修正第1条による保護が及ぼされるコマーシャルスピーチは、適法な活動するものであり、誤解を招くものではないことが求められることから、情報の受領者にとって意思形成に有益な情報の伝達を保護するという観点から、商業的取引を提案又は勧誘する情報伝達に対する政府規制を一定の範囲で制限するという理論が形成されています。人々は、情報のなかから決定に必要なものを取捨選択の上で利用して、自分自身についてみずから欲する姿を描きだし、それに向けて自己を発展させていくことができると考えられます。しかし、このように行動することは理想像であり絵に描いた人の姿であり、現実の多数の人間の生活を描いていると考えることはできず、そのようにしないことから生じることがある不利益を負担すべきであるということは現実を見失っているではないかということが示唆されます。第二に、様々な制度が真実である情報の伝達を抑制するように作用することはよく知られています。評判を保護する制度は、真実を内容とする情報が伝達されるときにその自由な流通を抑制する効果があることから、真実が伝達されそれに基づいた決定ができる制度とすることが求められます。 
 考察対象は以上紹介したことに関連する事項も取り上げて、研究を深めていくことにしたいと思います。研究会は当初、紙谷雅子(学習院大学教授)、金原恭子(千葉大学教授)、 博行(京都文教大学教授)及び木南敦(研究分担者)で組織されます。平成21年1月10日に開催された第一回の会合は 「ポスト構造改革における市場と社会の新たな秩序形成―自由と共同性の法シスム」という研究課題について理解を図るために開催し、この課題におけるコマーシャルスピーチに関連する事柄について意見を交換した。平成21年2月17日の会合では、第一回に引き続いて研究課題とコマーシャルスピーチにかかわる事項の関連について意見を交換し、この研究会において今後取り上げて考察すべき事項についても意見を交換した。
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平成20年度 第5回市場秩序形成部会研究会
   日 時:平成20年9月26日(金) 14:00〜16:00
   場 所:京都大学本館4階 第1演習室
松尾 陽氏(京都大学大学院法学研究科研究員(学術創成))
  「原意主義の民主制論的展開−アメリカの法解釈方法論争の一断面−」
  原意主義は、憲法は憲法制定時の意志ないし意味にしたがって解釈されるべきと主張し、主として一九六〇年代に司法積極主義としてリベラルな価値を体現したといわれるウォーレン・コートの諸判決ないしその背後にあるといわれる「生ける憲法」の思想を批判して登場したアメリカの憲法解釈方法論の一つである。本報告は、原意主義をその最近の展開を含めて、民主政論的な観点から捉えなおし、また、一九八〇年代後半からその議論が深化している(「原意主義の民主政論的展開」)と分析する。この展開を辿ることで、現代における民主政論の現在を見ていこうとするものである。
  その登場背景からして原意主義は保守主義と政治的につながっており、裁判官の裁量の制約、立法府の判断の尊重を特質としていた。しかし、原意とは何か、ひいてはなぜ原意かという問題について深い考察を与えてこなかった。この点が強く批判されて、一九八〇年代後半からこれらの問題が議論されてきた。なぜ原意かという問題について一つの解答を与えたのが、Bruce Ackermanの二元的民主政論、これを別様に展開するKeith Whittingtonの原意主義である。
  Ackermanの二元的民主政論は、憲法を制定し改正していく人民の決定を「創憲政治」、そこで出来た憲法枠組みの中で政策が生み出されていく政府の決定を「通常政治」と呼び、そのうえで、形式的な手続によらない実質的な憲法修正を認め、創憲政治の役割を大きく認めるのがその特徴となっている。従来の原意主義者が実質的な憲法修正を認めない点で大きく異なるのであるが、しかし、通常政治期における司法の役割を創憲政治によって産出された憲法枠組みを守る「保護主義者」として位置づけている点で、原意主義に位置づけられる。問題は二つの時期の区別根拠であるが、その論拠は、人民の熟慮が稀な時期にしか起こらないということ(熟慮の希少性)を前提にしつつ、現代人の幸福追求のあり方は政治参加に限定されるものではないということである。
  Whittingtonは、Ackermanの二元的民主政の基本的枠組みを継承しつつも、そこにおける、通常政治の役割の過小評価、司法の優越性を強く認めているという点を批判し、裁判所による「憲法解釈」に対して政治部門による「憲法構築」の重要性を説き、また、司法の優越性の相対化を図ろうとする。そこでは、原意主義と「生ける憲法」との調和が図られ、また、諸部門が各々の部門の特性を生かして協働して憲法を実現していくということが説かれている。
  本研究会では、立憲主義の意義、憲法制定権力論、法解釈方法論と民主政論との関係、解釈学論的転回と法解釈方法との関係、Ackermanの実質的憲法修正論における憲法修正の瞬間の認定の問題とそこにおける司法の特権化の問題をめぐって、議論がなされた。
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平成20年度 第3・4回市場秩序形成部会研究会
   日 時:平成20年6月21日(土) 10:30〜13:00/7月5日(土) 10:30〜17:00
   場 所:京都大学法経本館4階 大会議室 (6月21日)
        京都大学法経北館3階 第11演習室 (7月5日)
 森本 滋氏(京都大学大学院法学研究科教授、研究分担者)
 北村 雅史氏(京都大学大学院法学研究科教授)
 片木 晴彦氏(広島大学大学院法務研究科教授)
 伊藤 靖史氏(同志社大学法学部准教授)
 岡村 忠生氏(京都大学大学院法学研究科教授)
 中東 正文氏(名古屋大学大学院法学研究科教授)
  平成20年6月21日および7月5日に、日本私法学会シンポジウムの準備会を兼ねて、平成20年度 第3回および第4回市場秩序形成部会研究会が開催された。両回ともシンポジウムの報告予定者が、これまでの議論を踏まえて,それぞれの担当テーマ(序論、企業結合の形成過程、開示、子会社の少数株主保護、税制および買収防衛策の規律)について、現段階までの見解を取りまとめ報告することを目的とし、6月21日は報告予定者間の議論を中心に、7月5日は研究会の他の参加者からの意見をも広く募る形で行われた。若干の修正があるものの両回報告の内容が重複するため、まとめて概要を記すこととする。
  序論として、森本滋教授(京都大学)より、結合企業法制に関連する学界および立法におけるこれまでの動向が報告された。
  北村雅史教授(京都大学)からは、企業結合の形成過程に関する諸問題が報告された。まず、株式譲渡による支配従属関係の形成における少数株主保護にかかる立法論的課題として、金融商品取引法の適用がある会社については、現在の公開買付制度に強圧性の問題解決として追加応募機会提供制度を導入すべきこと、閉鎖的株式会社については支配株主に対する株式買取請求権を導入することが挙げられた。次に、少数株主の締め出しに関しては、対価が公正であれば締め出しが可能であるとする見解と、締出しを正当化する事業目的が必要であるとする見解があるが、後者における正当な事業目的の内容については現在唱えられている正当な事業目的とそうでない場合の区別はいずれも十分な説得力を持つに至っていないことを指摘した。大多数支配の場合の締め出しについては公開買付とリンクさせる方法とそうでない方法があり得るが、いずれにしても締め出しを認める場合には少数株主からの買取請求も認めるべきであると述べた。最後に、親会社の少数株主保護について、とりわけ子会社の基礎的変更等への親会社株主の関与の仕方として、一定の行為には親会社の株主総会決議を要求することや、親会社株主が子会社の株主総会で議決権を行使することが考えられるが、迅速性を害するという問題点があることを指摘した。
  片木晴彦教授(広島大学)は、企業結合と開示というテーマで、主に連結計算書による情報提供、及び関連当事者取引の開示の在り方を検討した。まず、前者について、現在は、連結計算書類の作成義務を負うのは金融商品取引法上、有価証券報告書の作成が義務づけられる大会社に限定されるが、少なくとも上場子会社を有する大会社については、連結計算書類の作成を免除する根拠が乏しいことを指摘した。また、後者については、連結計算書類の作成が義務づけられる会社においては、個別注記表に開示されるが、重要なものに限定されているため、子会社との事業上の取引が開示の対象となることはあまり多くないこと、具体的な取引条件も明かでないことが多いことが指摘された。少数株主の情報収集力の改善には、少数株主から請求があった場合に検査役に親会社に対する調査権限を付与すべきことが考えられると主張した。
  伊藤靖史准教授(同志社大学)は、子会社の少数株主保護について、アメリカの現状として、親会社による子会社からの私的便益の収奪はある程度許容されていること、裁判所による介入も限定的であること、少数株主の締め出し局面については私的便益の収奪に抑制的な態度をとっていることを指摘した。そして、我が国の法制の立法論的検討の出発点として、独立当事者間取引基準の徹底により子会社の経済的独立性の確保をはかる江頭憲治郎教授の見解を紹介した上で、独立当事者間取引基準が妥当すべき根拠は十分に論証されているとはいえず、また市場その他の非法的規律等も考慮にいれれば、開示規制を充実した上で利害調整を当事者の合意に委ねうる場合もあるのではないかと結論づけた。
  岡村忠生教授(京都大学)は、企業結合と税法という観点から以下の通り報告した。所得課税の対象である所得は、個人の心理的満足であるが、それを数値化し、課税主体が課税者に課税ベースの算定を委ねるとき、課税者がその算定を歪曲することがあり得る。従って、客観的検証可能な形での課 税ベースの算定が要請される(実現主義)。税法が客観的検証可能性を追求すれば、今度は、ロックイン効果による取引自体の歪曲、経済実質のない取引による税負担の回避という歪曲が生じる。企業結合に関する問題は、後者の歪曲として現れ、企業結合税制は、その対処と位置づけられる。企業結合は、課税の面で、支配会社と少数株主の間に利害衝突を生じさせる。企業間の経常取引による所得の振替は、結合企業に固有の問題ではない。独立当事者間取引基準は、独立した当事者間の取引においては課税前利益を増加させようとするインセンティブが税負担を減少させようとするインセンティブを超えている限りで税収増加という点から意味があるといえる。所得の振替に対する対処方法としては、ほかに、利益分割法、コストに基づく移転価格算定、さらに連結申告により課税単位を拡張し、結合企業を一つの納税者として把握することも考えられる。企業組織再編に税制が与える影響に関連して、現行法の問題点としては、適格要件が厳格で、金銭が対価として用いられると非適格になること、および組織再編に先だって行われる事前の公開買付と組織再編成が別々の行為として捉えられていることが挙げられる。さらに、企業結合外からM&Aを利用して欠損金額を持ち込もうとする行為は、少数株主と企業グループ全体との間で異なる経済的意義を持ちうるが、それを制限すべき根拠を問い直す必要がある。
  中東正文教授(名古屋大学)は、企業結合法制と買収防衛策というテーマで、企業結合法制の不備を買収防衛策が補っているという点に注目し、現行法の検証を行った。企業結合法制における課題の一つは、支配株主による富の移転の防止である。買収防衛策は、敵対的な買収の文脈で富の移転を防ぐ機能を有している。企業買収に関する法制は、現在、会社法制と証券市場法制にまたがっているが、会社支配市場の実体法制は、エンフォースメント、規制の首尾一貫性などの観点から会社法制が担うことが望ましい。現行法への改正提案としては、強圧的な買収からの株主の保護のために、公開買付け成立後の買付期間の延長、取引の公正さを確保するための事前規制、残存株主への株式買取請求権の付与が考えられる。また、対象会社の株主への必要な情報提供を実現するためには、敵対的買収に際して委任状争奪戦が行われるよう、買収者の議決権行使に制限を課すという仕組みが効果的である。また、株主名簿閲覧請求権に関する会社法125条3項3号は削除されるべきである。
  質疑応答においては、独立当事者間取引基準の意義、子会社上場が行われる背景、特別決議による少数株主の締め出しの可否、税法における否認の運用状況などについて、活発な議論が行われた。なお、これらの研究会における議論を経て完成された報告者の論稿が、商事法務1849号(2008)に掲載されている。
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平成20年度 第2回 市場秩序形成部会研究会
   日 時:平成20年4月19日(土) 14:00〜18:45
   場 所:同志社大学光塩館・第二共同研究室
土井 真一氏(京都大学大学院法学研究科教授、研究分担者)
  「C. Sunsteinの「司法的最小限主義」(Judicial minimalism)の意義と射程」
川M 昇氏(京都大学大学院法学研究科教授、研究代表者)
  「認知能力の限界とパターナリズム」
 本研究会は、キャス・R・サンスティーン教授の見解を紹介検討するものであり、土井報告においては、社会の秩序形成における司法の役割(サンスティーンの司法最小限主義)の問題、川濱報告においては、市場の秩序形成と関わる行動法と経済学の意義(サンスティーンのリバタリアン・パターナリズムの理論的背景)の問題が扱われた。
  土井報告において紹介検討された論点は、具体的には、(1)司法判断最小主義の手法(判断の射程、判断の理論的正当化の程度、不完全にしか理論化されていない合意、類比)、(2)その歴史的背景(レーンキスト・コートにおける保守派・中間派・リベラル派の均衡)、(3)司法最小限主義の前提条件と正当化論拠(多元性、限定合理性、熟議民主政論における司法の役割)、(4)ロールズの議論との比較(政治哲学と憲法学の役割の相違)、(5)司法最小限主義とBurke主義との関係(「伝統」と「合理主義」との関係の問題)、(6)その意義(プラグマティズム)と限界(ルールが妥当する領域、漸進的改革の限界)である。
  本報告に対しては様々な質疑応答がなされ、そこで議論された主題は、(1)サンスティーンの熟議民主政はそれが生み出す結果の観点から望ましいとされるのか、結果の如何に関わらず望ましいとされるのか、(2)司法最小主義は抽象化の問題を扱っているが、体系化、概念化の問題を扱っているのか、扱っているとすればどのように取り組んでいるのか、(3)欠缺の問題を取り扱っているか否かなどの問題である。
 また、川濱報告においては、リバタリアン・パターナリズムの理論的背景にある行動法と経済学を中心にそのサーベイと検討がなされた。そこで取り扱われた問題は、具体的には、(1)行動法と経済学の位置づけ(伝統的法と経済学に対抗して登場した点、個人の相互的インタラクションをも取り扱う実験経済学とオーバーラップする点と相違する点)、(2)合理性からのシステマティックな乖離を引き起こす認知能力の限界(情報処理能力における不合理性、選好の非整合性、意思力の弱さ)、(3)認知能力の限界が市場で是正されるか否(鞘取り、Money Pumpの可能性)(4)認知能力の限界とパターナリズム(選択肢を排除することなく厚生を増大させる形での介入の問題、ベースライン問題、厚生評価の困難)である。
  本稿に対しては様々な質疑応答がなされ、そこで議論された主題は、(1)合理主義的ではない人間は淘汰されうるのか否か、(2)認知能力の限界が学習によってカバーされうるか否か、(3)リバタリアン・パターナリズムは従来のパターナリズム研究においてどのように位置づけられるか否かなどの問題である。
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平成20年度 第1回市場秩序形成部会部会研究会
   日 時:平成20年4月19日(土) 10:30〜13:00
   場 所:京都大学法経本館4階 大会議室
「税 法」
 渡辺 徹也氏(九州大学法学部教授)
 手塚 貴大氏(広島大学法学部・大学院社会科学研究科准教授)
 岡村 忠生氏(京都大学大学院法学研究科教授)
 平成20年4月19日、日本私法学会シンポジウムの準備会を兼ねて、平成20年度 第1回市場秩序形成部会研究会(テーマ「企業結合税制」)が開催された。 まず、岡村忠生教授(京都大学)より、企業結合にかかる税制の総論的説明があった。企業結合に税法が特別の考慮を払っている領域として、企業グループ内の損益取引における取引価格の取扱、一定の法人間の事業(まとまった資産)の移転における課税繰延、連結納税制度がある。岡村教授によると現在の所得課税の基礎にある実現主義は、価格評価の客観的検証可能性という執行上の観点から、納税者と資産との関係(interest)の変化が一定の程度を越えれば(materially different)課税を行う原則へと変化したが、これは法人・株主それぞれの段階における課税の仕方にも影響を与えるものである。また、課税単位の決定における私法上の法人格の意義は、企業結合に対する課税において基本的な問題であるにもかかわらず明示的な議論がない。さらに、株主法人間取引の範囲や概念、損益取引との切り分けの各国間の相違は、国際取引における移転価格税制の適用において、実際上の問題として顕在化する。最後に、会社法制・企業会計と税法との関係につき、逆基準性の問題が言及され、税法が企業会計や会社法制が実務に与えている選択の余地を狭めているところがあるが、税法の理念、執行上の問題等がさらに検討されるべきであると指摘された。
 続いて、渡辺徹也教授(九州大学)が、イギリスにおける結合企業税制について報告した。具体的には、グループ形成時における課税ルールとして、法人設立、法人取得、とりわけ株式を対価とする取得、会社の人的分割および組織再編成における課税繰延の法的根拠、その内容、租税回避否認原則(Ramsay原則)、形成されたグループ内の取引における課税上の特別な取扱として、グループ内で損失の移転を認めるグループ・リリーフ(group relief)(これに類似するものとして、コンソーシアム・リリーフ(consortium relief))およびグループ内の資産移転(intra-group transfer)における課税繰延について解説がなされた。
 手塚貴大准教授(広島大学)からは、ドイツにおける企業結合税法の法構造と諸問題が報告された。ドイツの法人税法が、私法上の法人格の有無をベースに課税方式を識別する私法準拠主義をとっていることが指摘された後、連結納税制度である機関会社制度(Organschaft)、組織再編税制における簿価引継の要件、外形取引(Mantelkauf)の制限・禁止が解説され、企業結合の国際化に伴ってドイツの課税庁が直面する問題として、Marks&Spencer事件のドイツ租税政策の影響、ヨーロッパ株式会社(SE)設立における課税問題が指摘された。  最後に、岡村教授から、アメリカの企業結合税制の特徴について簡潔な説明がなされた後、今後の企業結合税制の課題として実質主義の検討の必要性が指摘された。  ディスカッションにおいては、企業の節税対策と取締役の善管注意義務との関係、否認の基準等が議論された。
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 平成19年度 第6回市場秩序形成部会研究会
   日 時:平成20年3月15日(土) 10:30〜13:00
   場 所:京都大学法経本館4階大会議室
「子会社の債権者・少数株主保護」
 中村 康江氏(立命館大学法学部准教授)
 伊藤 靖史氏(同志社大学法学部准教授)
 森 まどか氏(神戸学院大学法学部准教授)
 齊藤 真紀氏(京都大学大学院法学研究科准教授、研究分担者)
 平成20年3月15日、平成20年度日本私法学会シンポジウム準備会を兼ねて、第6回部会研究会が開催された。今回は子会社少数株主および子会社債権者の保護がテーマとされた。
 まず、立命館大学准教授の中村康江氏がイギリスにおける子会社少数株主・債権者保護について報告した。はじめに、イギリス法独特の取締役概念とかかる取締役が負う義務について説明された。子会社少数株主の保護制度としては、不公正侵害に対する救済制度と代表訴訟制度が紹介され、とくに前者の重要性が強調された。子会社債権者の保護制度としては、法人格否認の法理、詐欺的取引規制、不当取引規制などが紹介され、とくに不当取引規制に関連して、親会社が子会社の影の取締役となるための要件が説明された。
 次に、同志社大学准教授の伊藤靖史氏がドイツにおける子会社少数株主・債権者保護について報告した。まず、株式法のシステムとして、コンツェルン法上の契約コンツェルンと事実上のコンツェルンに分けて、被支配会社・従属会社の少数株主・債権者保護制度が紹介された。ただし、契約コンツェルンは必ずしも多くはなく、事実上のコンツェルンについても支配企業に対する損害賠償請求権が行使されることは稀である旨の説明がなされた。次に、従属有限会社のルールとして、支配社員の誠実義務、変態的事実上の有限会社コンツェルンの法理、会社の存立を破壊する侵害の法理などが紹介された。さらに、少数株主の締出制度における金銭代償の決定がすべての少数株主に及ぶことが説明され、最後にドイツ法からの示唆として、必ずしもコンツェルンに着目しない一般的な法理活用の可能性が検討された。
 続いて、神戸学院大学准教授の森まどか氏がアメリカにおける子会社少数株主・債権者保護について報告した。子会社の少数株主保護制度として、子会社およびその少数株主に対する信任義務に基づいて親会社が責任を負いうることとかかる責任の判断基準が紹介され、また、利益相反取引規制・信任義務違反を根拠に従属会社取締役(とりわけ兼任取締役)の責任が追及されうることが説明された。子会社の債権者保護制度としては、詐害的譲渡規整、内部者に対する偏波行為、衡平的劣後化、法人格否認、実体的併合の制度が紹介され、このうち法人格否認がもっとも頻繁に用いられる法理であることが指摘された。
 最後に、京都大学准教授の齋藤真紀氏がフランスにおける子会社少数株主・債権者保護について報告した。子会社の少数株主保護制度として、連結計算書類による開示、親子会社間の一定の取引について取締役会・株主総会の承認を要求する利益相反取引規制、資本多数決濫用の法理による決議無効・損害賠償の制度が紹介された。また、上場会社については、支配株主が95%以上の議決権を保有した場合に、少数株主に株式買取請求権が与えられることが説明された。子会社の債権者保護制度としては、会社財産の濫用に関する罪に関連してRozenblum判決が示したグループ会社指揮者の義務内容が紹介され、それが企業結合に関するヨーロッパ・フォーラムの提案に取り入れられた旨が指摘された。また、親会社が事実上の指揮者として、債務填補責任や財産濫用責任を負いうることが説明された。
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 平成19年度 第5回市場秩序形成学部会研究会
   日 時:平成20年2月16日(土)10:30〜13:00)
   場 所:京都大学法経本館4階 大会議室
「親会社株主の保護」 
 中東 正文氏(名古屋大学大学院法学研究科教授)
 釜田 薫子氏(大阪市立大学大学院法学研究科准教授)
 河村 尚志氏(龍谷大学法学部准教授)
 清水 円香氏(九州大学大学院法学研究院准教授)
 舩津 浩司氏(同志社大学法学部助教)
 平成20年度日本私法学会シンポジウム準備会を兼ねて、第5回部会研究会が開催された。今回は、「親会社株主の保護」をテーマとし、特に@子会社資産の譲渡についての親会社株主の関与、A親会社株主による子会社情報の収集手段、およびB親会社株主による子会社取締役等に対する責任追及について、各国の対応が紹介され、それをもとに議論がなされた。
T.アメリカの状況について、大阪市立大学准教授の釜田薫子氏より報告があった。
 @について、MBCAは、会社に重要な事業を残さないような資産の処分には株主総会の承認が必要であり、その際、連結子会社の資産は親会社の資産とするとしているが、デラウェア州法等にはそのような規定がないとの紹介があった。Aについては、MBCAは株主への年次財務諸表の送付を要求するのに対し、デラウェア州法等にはそのような規定がないこと、ならびに、MBCAおよび大多数の州法は親会社株主による子会社の帳簿閲覧請求権を明定していないが、デラウェア法等はその点についての定めを有していること、および親会社株主による子会社の帳簿閲覧を認めるか否かについて判例の見解は統一されていないことが紹介された。Bについて、ALI原則は親会社株主に多重代表訴訟を認めるが、州法には規定がないこと、および判例には多重代表訴訟を認めるものが多いことが紹介され、同時所有の要件との関係で生じる問題点について検討がなされた。
U.イギリスの状況について、龍谷大学准教授の河村尚志氏より報告があった。
 イギリスでは、親会社株主の保護については、会社法上は開示と親会社取締役を通じた間接的な子会社コントロールが中心となっているとの紹介があった。@については、親会社株主の承認を必要とするとの議論はなされていないとの紹介があった。Aについては、株主は制定法で定められた範囲を超えて、会社の帳簿・記録を調査する権利を有さないとの判例があるが、他方で、登記がなされる書類(計算書類や取締役報告書等)については、一般公衆に公開されるものであることから親会社株主も閲覧することが可能であるとの指摘がなされた。また、会計監査人の情報収集権は子会社の帳簿等に対しては及ばないとされているが、会計監査人は、一定の者に対し、職務遂行に必要な情報の提供を求めることができ、その請求の相手方には、子企業や子企業の役員等も含まれること、それらの者が情報の提供を怠った場合等には罰則が設けられていることが紹介された。さらに、少数株主の請求による検査役の会社(子会社も含む)調査の制度が存在するが、少数株主によってこの制度が利用されることはまれであるとの指摘がなされた。Bについては、1997年に二重代表訴訟・多重代表訴訟制度の導入が法律委員会で検討されたが他の制度で対応可能である等の理由で立法化が見送られたとの紹介があった。このほか、内部統制に関し、企業グループを前提にしたものでなければならないとする統合規定原則の規定に言及された。
V.ドイツの状況について、同志社大学助教の舩津浩司氏より報告があった。
 Aについて、親会社株主は、コンツェルン決算書およびコンツェルン状況報告書からコンツェルン全体に関する情報を得ることが可能であること、子会社の情報を得るのに有力な手段として、親会社株主による総会における株主の解説請求権について議論があることが紹介された。@については、親会社株主総会が子会社に関する事項について決議をする権限があるとしたHolzmuller判決の詳細な紹介およびそのような親会社株主の権限を限定したGelatine判決の紹介がなされた。Bにいては、ドイツでは2005年まで株主代表訴訟が認められていなかったことから、十分な議論がなされていないとの紹介があった。このほか、親会社株主の利益処分権限の保護についての議論の紹介があった。
W.フランスの状況について、九州大学准教授の清水円香より報告があった。
 @については活発な議論が見られないとの指摘があった。Aについては、親会社株主は、総会に提出される連結決算書類や、子会社の業務の状況も記載される業務報告書、およびグループ業務報告書を通じて子会社やグループ全体に関する情報を取得できること、親会社の少数株主が業務鑑定人の選任を裁判所に請求し、その者に子会社の業務執行について調査をさせる制度が存在し、フランスでは親会社株主の保護の手段としてこの制度がもっとも重視されていること、および会計監査役は子会社の帳簿等を閲覧することができ、そこから親会社株主が子会社に関する情報を取得できる場合があることについて紹介がなされた。Bについては、二重代表訴訟等を認める明文規定は存在しないが、判例の中にはこれを認めるものがあること、学説はこれを認めるべきであるとするものが一般的であるが、その理論的根拠は分かれているとの紹介があった。
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平成19年度 第4回市場秩序形成部会研究会
   日 時:平成20年2月9日(土) 14:00〜17:00
   場 所:京都大学時計台記念館 会議室T
「消費者保護と取引の公正―国際的動向を中心に―」
 本城 昇氏(埼玉大学経済学部教授)
 井畑 陽平氏(京都大学大学院法学研究科研究員(学術創成))
 わが国では、構造改革以降の市場による調整機能を重視する環境の下で、消費者が損害を被る案件が多発しているのが現状である。消費者が損害を被るパターンは、従来からの古典的な消費者利益を毀損されるものから、近年の技術的発展を背景とした新たなものに至るまで多種多様である。ところで、そもそも、市場の調整機能を重視する経済とは、消費者利益を重視(最大化)する経済のことであって、規制緩和・構造改革の元来の目的は消費者利益の実現にある。消費者利益を実現するため、政府は、自由放任なる御旗を振りかざすだけでは足らず、少なくとも、消費者に対する欺瞞的な行為を規制する必要がある。この点、米欧では、従来から欺瞞的な行為のみを規制するだけでは消費者利益の実現に不十分であって、市場における公正な行為・慣行の涵養が重要であると認識されてきた。
 本研究会は、米欧における対消費者政策の動向と、米国連邦取引委員会法(FTC法)5条にいう「不公正」概念の展開とを検討することで、近年の消費者政策の研究および実務状況を紹介し明らかにすることを目的とする。なぜなら、近時、米欧で消費者の自律を促す政策展開と市場における「不公正な」行為・慣行概念について新たな展開がみられるためである。
 本城報告においては、FTCがFTC法5条を根拠として行う消費者保護政策の現状と問題点とについて取り上げられ、特に、FTCによる消費者保護行政の実態が詳細に示された。まず、FTC法5条にいう「不公正な行為・慣行」と「欺瞞的な行為・慣行」との相違について簡潔な説明が行われ、続いてFTC法13条(b)を根拠とする差止命令の運用実態について、時系列的にかつ代表的な事案の概要とともに紹介・検討が行われた。欧州の動向については、時間の関係上、EC委員会による消費者支援政策の動向についてのみ、紹介が行われた。
 井畑報告においては、FTC法5条にいう「不公正な行為・慣行」の「不公正」概念の展開と現状とに着目し、特に、FTC法5条n項に掲げられた消費者損害にかかる3段階テストをカギとして、FTCが消費者利益を毀損する行為であると近時考えている行為の類型化が試みられた。その結果、インターネット関連技術の進展に伴い、ネット関連技術の悪用や金融機関向け個人用ID・パスワードの不当利用行為等が消費者損害を惹起する新たな行為類型として取り上げられている現状が明らかにされた。
 両報告に対しては、競争の観点に基く規整を重視する立場から数多くの質問やコメントがなされ、活発に議論が繰り広げられた。議論がなされた主なテーマは、@FTCが損害を被った消費者に成り代って違反行為者に賦課する制裁金を分配することで生じる実務的問題点とは何か、Aネットの個人用ID等を本人の承諾なく集積した行為が問題とされた事案における消費者損害とは何か、B連邦裁判所に提訴することで直ちに同意命令に持ち込まれる事案にはどのような特徴があるのか、そして、CFTCがFTC法を根拠して課しうる高額な民事制裁金(civil penalty)はいかにして算定されるのか、また、民事制裁金が課せられる行為類型のうちわが国独禁法で規制出来ないものはあるか、などである。
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平成19年度 第3回市場秩序形成部会研究会
   日 時:平成19年12月15日(土)10:30〜13:00
   場 所:京都大学法経本館4階大会議室
「企業結合の形成過程の規制について」 
 北村 雅史氏(京都大学大学院法学研究科教授)
 松尾 健一氏(同志社大学法学部准教授)
 加藤 貴仁氏(神戸大学大学院法学研究科准教授)
 松中 学 氏(大阪大学大学院法学研究科助教)
 まず、最初に、大阪大学助教の松中学氏が、アメリカ法における企業結合の形成規制について報告した。企業結合の形成の方法が、州会社法上の企業結合の方法による場合と、株式の取得による場合に分類され、前者について、資産の譲渡、合併、後者について、支配株式の取得、新株発行、公開買付けについて、関連する法規制の紹介がなされた。さらに、少数株主に与えられた救済として、制定法上の株式買取請求権と、エクィティ上の差止め、損害賠償責任等の比較がなされた。
 次に、京都大学教授の北村雅史氏が、イギリスにおける企業結合の形成規制について報告した。イギリスのTOB規制はEUの第13指令のモデルになったが、EUの第13指令の国内法化による従来のTOB規制がどのように改正されたかが確認された。続いて、合併、分割規制の概要が説明された。ただし、イギリスにおいては、企業結合の手段として、合併の事例が少ないことも指摘された。
 続いて、神戸大学准教授の加藤貴仁氏が、ドイツの企業結合の形成規制について報告した。まず、企業買収法の構造および公開買付けの規制が紹介された後、新株発行規制における決議内容の実質的要件と、事業譲渡に関するホルツミュラー判決の今日的意義、組織変更法上の会社分割の規制について説明がなされた。
 最後に、同志社大学講師の松尾健一氏が、フランスにおける企業結合の形成規制について報告した。まず、EU第13指令国内法化後の公開買付け規制が概観された後、フランスの規制の特徴として、いわゆるブレイクスルー規制が採用されたこと、ある上場会社の支配権を取得した場合にはその会社の上場子会社についてもいわゆる強制的公開買付制度が適用されること、株主総会の承認を得て防衛策としてライツプランを導入できることなどが指摘された。
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平成19年度 第2回市場秩序形成部会研究会
   日 時:平成19年10月20日(土) 10:30〜13:00
   場 所:京都大学法経本館4階 大会議室
「計算について」 
 片木晴彦氏(広島大学大学院法務研究科教授)
 小柿徳武氏(大阪市立大学大学院法学研究科准教授)
  岡田昌浩氏(新潟大学法学部准教授) 
 今回の研究会では、英・米・独・仏各国における結合企業に関する計算の問題について、親子会社にかかる開示を中心に報告がなされた。(1)英米についてはFASB・IASおよびEU法上の規制(英に関して)を中心に開示の内容・規制対象・適用除外を中心に、(2)独については結合企業法制のうち特に従属報告書制度における開示の内容・検査・ドイツにおける評価を中心に報告された。また、(3)仏については連結計算書類制度に関して作成義務者、連結対象会社を中心に報告が行われた。
 各報告に関する議論では、主として次の点が論じられた。(1)EUの第7指令における連結財務諸表作成義務者の範囲、検査役の意義についてわが国との異同(債権者保護のためか株主間の公平の確保のためか)について論じられた。(2)従属報告書における開示とそのエンフォースの手段、特に株主によるエンフォースがどの程度確保されているかに関して、日独における公認会計士の役割の差異も踏まえた議論が行われた。さらに、(3)連結計算書類を会社法上作成させる意味、およびヨーロッパにおける連結計算書類などの法規制の意義について論じられた。
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平成19年度 第1回市場秩序形成部会研究会
   日 時:平成19年7月21日(土) 11:00〜12:30)
   場 所:京都大学4号館公共政策大学院第一教室
初回打ち合わせ会合
 冒頭に、主催者である森本滋教授(研究分担者)より、本研究会の目的として、下記の説明がなされた。
 平成9年以降、企業結合形成のための制度が整備され、我が国の大企業において、多様な企業結合関係が形成されている。平成17年制定の会社法は、大企業の国際競争力の回復・強化のため、事前規制の撤廃と会社自治の拡大をスローガンに、会社法制を抜本的に改編したが、企業結合に関する開示規制は未だ不十分であり、企業結合内部における株主・債権者保護策の多くも解釈にゆだねられている。とりわけ、資本制度と株主平等原則の機能の縮減により、従来よりも株主・債権者保護システムは脆弱化しており、それを補強するシステムの構築が喫緊の課題となっている。
 他方、従来の株主オーナー論と市場主義に対する反省から、経営者と大株主の間の支配権を巡る争いを公正に解決する方策についても議論されており、近年しばしば、公開買付け関連規制の見直しがなされている。また、この関連の訴訟において、裁判所が積極的法創造を行っているが、その手続的・内容的妥当性について、検討がなお必要であるように思われる。
 このような我が国の現状に対する問題意識を前提に、近年の市場システムのもとにおける会社法および証取法における規制緩和傾向と、不公正な株式取引や不公正な企業支配力の形成・維持に対する効果的コントロールに配慮した新たな法整備の必要性について、企業システムの再構築として、比較法的検討も加えて、平成19年7月から平成20年12月までの間、研究を進めることとする。
 ファンドという、匿名の(多数の)資金提供者から調達された膨大な資金の運用者による、企業支配ないし経営介入に対する責任をどのように考えるか、が大きな問題となろう。単純な規制の撤廃・市場万能主義に対して公正かつ自由な市場秩序を保障し、社会的モラルの後退を押しとどめるという本研究計画が企図する観点からの検討が不可欠となると考えられる。
 なお、平成20年秋に開催される日本私法学会において、森本滋教授を中心として「企業結合法」をテーマにシンポジウムを開催し、本研究会の成果の一部を公表する予定である。
 同日の会合においては、上述の点について研究会の参加者の了解が得られた後、今後の研究会の日程と報告の分担について話合いがなされた。
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